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元素の世界へようこそ:消えた元素、ニッポニウム

松本です。

 

元素の世界へようこそ。このカテゴリは手元に周期表を持って読んで頂けるとより楽しめるようにしております。

 

つい最近、新しい元素の名前がつくと話題になっていましたね。それは、長年、化学者達の(そして、元素マニア達の)夢でもあった日本の元素名、ジャポニウム(113:Jp)です。

 

ジャポニウムという名前について、ダサいと思われる方は多いかも知れません。しかし、国名を元素につけるのは比較的メジャーです。ゲルマニウム(32:Ge)はドイツの古名からとっていますし、ガリウム(31:Ga)はフランスのラテン名です。また、フランスはフランシウム(87:Fr)の由来にもなっています。ポーランドからとったポロニウム(84:Po)、アメリカからとったアメリシウム(95:Am)なんてのもあります。

 

元素の名前はその時々に流行のようなものがあり、人名、国名、惑星の名前、様々なものがあります。元素の中には一度名前がついたけれど、間違いや単一元素ではないことが判明して名前が変わってしまったものも多くあります。

消えたニッポニウム

その中でも有名なものが、タイトルにもあるニッポニウムです。まぁ有名と言っても、日本人の中で、かもしれませんが、僕はこの話に化学のロマンを感じて大好きなので、一番に紹介したいなと思っていました。

 

この話を説明するために、まず周期表のお話を少ししましょう。周期表はこの世に存在する元素をカテゴリごとに分け、元素番号や代表的な質量数を表記したものですが、皆さん、不思議に思ったことはないでしょうか?なぜ、これだけの数しかないと言い切れるのかと。現在の飛躍的に進歩した化学の知識によれば元素の全ての種類を網羅できるのは納得いきますが、周期表の中の未発見元素も含めたおおよその形が決まったのは今から100年ほど前になります。

 

その決め手となったのは、1913年、イギリスの物理学者、ヘンリー・モーズリーが発表したモーズリーの法則です。モーズリーの法則は特性X線の波長の逆数の平方根が原子番号と直線関係にあることを示した式です。簡単に言うと、モーズリーが原子番号という概念を作り出したと言っても過言ではありません。今では原子番号=陽子の数と覚えますが、当時は陽子という概念はありませんでした。

 

ちなみにモーズリーはこの法則の発表により、ノーベル賞の受賞は確実と言われておりましたが、第一次世界大戦で戦死し、受賞は叶いませんでした。これにより、欧米諸国は科学者の戦争従事を禁止したそうですが、そこらへんはWikipediaの知識です。

 

さて、モーズリーの法則により、周期表は抜けている元素はあるものの、一応の完成は果たしました。そこで問題となったのが「抜けている元素」です。それまでも抜けている元素を巡った化学者達の攻防があったわけですが、その中の1つにニッポニウムが関わっていました。

ニッポニウムの発見と1つの失敗

1908年、小川正孝氏が新しい元素を発見したと発表しました。それはこれまで多くの化学者が発見しては訂正を繰り返した43番目の元素です。トリアナイト鉱石から見つかった新しい元素を小川氏は「ニッポニウム(Np)」と名付けました。

 

しかし、後に43番目の元素は地球上には存在しないことが明らかになりました。半減期が短すぎて地球上で誕生した全ての元素が崩壊し、違う元素に変わってしまっているためです。ニッポニウムの名前は取り消され、43番目の元素はまた空白となりました。そして40年後、加速器による衝突試験で人工的に生み出され、ギリシャ語で人工的なという意味を持つ「テクネチウム(43:Tc)」と名付けられました。

 

更に「しかし」です。ではニッポニウムは何だったのか。これまで発表しては訂正された43番目元素は何かの混合物であったわけですが、ニッポニウムもそうだったのかという話です。このニッポニウムの訂正後も小川氏はニッポニウムについて研究し続け、とうとう研究室で倒れたまま帰らぬ人となりました。

 

後の研究により、ニッポニウムとして発表された元素は周期表でいう一つ下のレニウム(75:Re)だったことが(ほぼ)判明しています。

 

しかも、当時レニウムはまだ発見されていませんでした。周期表の上下は性質が特に似ており、これを判別するのは特に難しく、そこに誤りがあったわけです。現在はX線分析装置というメジャーな分析装置で簡単に区別することが可能ですが、当時はかなり貴重でした。

 

つまり、ニッポニウムは43番目の元素として発表するのではなく、75番目の元素として発表すれば現在も周期表に名前を残していたことになります。

 

その後、Npはネプツニウム(93:Np)として使用され、ニッポニウムの名前は使用できなくなりました。そうした中で新しく発見した元素に「日本」の名前をつけるのはある意味ではリベンジのようなものかもしれません。ちなみに僕もJpになればいいなと思っています。その理由はもう1つありますが、元素マニアの方ならわかるかもしれません。

 

以上!